大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1224号 判決

よつて控訴人主張の表見代理の点につき按ずるに、被控訴人が七十才余の老令であること、前記塚本衛が被控訴人の養子であり現に被控訴人方の世帯主であること、同人が被控訴人から被控訴人所有の田畑の耕作をなし、米麦の供出、農作物の売却納税等を任され農業経営上の家事を担当していたことは当事者間に争がなく、又成立に争のない乙第四ないし第七号証の各記載と原審並びに当審証人塚本衛の証言によれば、塚本衛は大正十三年八月十七日被控訴人の妹の子として出生し、幼くして被控訴人の養子となり、妻帯後昭和二十四年頃からは農事の主体となつて被控訴人方の田畑を耕作し、被控訴人に代つて農業経営を行い、又農業協同組合員となつていたものであつて本件抵当権設定当時既に満三十四才に達していたことが認められ、又原審並びに当審証人木内栄作の証言によれば、木内栄作は塚本衛に本件金員を貸与するにあたり、同人が被控訴人を代理する権限があると言つていたのをそのまま信じていたことが窺われるが、塚本衛が被控訴人所有の田畑の耕作その他営農上の家事を一任されていたからといつて、被控訴人所有の不動産そのものを処分する権限を有するものと考えることは早計たるを免れず、原審並びに当審証人塚本衛、同木内栄作の各証言によれば、塚本衛は被控訴人に無断で本件不動産の登記済権利証を持出したものであること、木内栄作は本件貸借にあたり、被控訴人方とは四粁位しか離れていないのに、何ら予め被控訴人に面接するなどして被控訴人が塚本衛の債務のために本件不動産に抵当権を設定することを諒承しているかどうかを確かめなかつたし、本件抵当権設定登記に際しても、被控訴人の立会を求めなかつたことが認められ、他に特段の反証がない。従つて若し右木内栄作において本件貸借にあたり、多少の労を惜しむことなく、被控訴人に直接確かめることをしたならば、既に認定したように、塚本衛が被控訴人の印鑑として使用したものは偽造の印鑑であり、被控訴人に無断で改印届をしたものであることや、塚本衛が被控訴人に無断で本件不動産の登記済権利証を持出し、被控訴人の承諾を得ないで連帯保証人や担保提供者としようとしていることが容易に発見できたであろうと考えられる。従つてこのような処置をとらなかつた木内栄作には過失があるものというべきであるから、同人が塚本衛において被控訴人を代理する権限があると信じても、未だ民法第百十条にいう正当の理由があるものとなすに足りない。

(谷本 堀田 野本)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!